研究概要 |
神経細胞はスパイクと呼ばれる短時間の電位変化を生成し互いに信号をやり取りする事で、高度な情報処理を行っているため、脳型情報処理の理解にはスパイク時系列がどれ程の時間精度を持って生成されるのかを明らかにする必要がある。これまで単一神経細胞が数ミリ秒程度の高い時間精度を持ってスパイク生成を行っているとの先行研究が報告されていたが、神経細胞は脳内で複雑なネットワークを作り、集団として働くため、脳内での情報処理に迫るには、単一神経細胞のスパイク精度ではなく神経細胞集団が生成するスパイク時間の精度を知る必要がある。これまでネットワークがスパイク生成時刻の変化にどの様に影響するのかは全く未解明の問題であった。本研究ではあるネットワークにおけるスパイク時刻精度の問題が、二つの全く同一のネットワーク間におけるスパイク発火の同期の問題に置き換えられる事に着目し、同期現象を取り扱う非線形動力学、及び、そこでの確率的な振る舞いを記述する確率微分方程式論を組み合わせる事でこの問題を解決した。この文脈で同期発火を理論的に取り扱うには揺らぎを受けて振動する非線形振動子の位相記述を確立する必要がある。これまで揺らぎを受ける非線形振動子には二つの異なる位相記述が知られており、両者の関係は解明されていなかった。本年度の研究成果では、揺らぎの相関時間と非線形振動子の振幅自由度の減衰時間という二つの微小時間スケールの比によって二つの位相記述が統合的に理解できる事を証明する事に成功した。本成果はPhysical Review Letters, 102, 194102, (2009)に掲載された。
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