小鳥の歌学習系は記銘内容が容易に定量可能で、しかも学習のために特化した神経回路が脳内に明瞭に存在することから、記憶・学習の神経メカニズムを理解するうえですぐれたモデルのひとつである。本研究では、この歌学習の神経メカニズムを探るアプローチのひとつとして、さえずり行動中と睡眠中の大脳基底核の神経活動に着目し、睡眠中における小鳥の大脳基底核ニューロンの神経活動が歌学習に必須の脳内過程であるか否か、その因果関係の検証を試みた。 本年度は、まず、歌学習期における幼鳥の大脳基底核ニューロン群がさえずり関連活動を示し、しかもその後の睡眠中においても同じニューロン群がさえずり行動中に見られたような強い活動の上昇を示すことが記録された基底核ニューロンのほとんどで観察され、非常に再現性のよい現象であることが確認できた。さらに、歌学習期を過ぎた成鳥においても、さえずり関連活動を示す基底核ニューロンが睡眠中においても活動の上昇を示すことが明らかになった。このことから、さえずり行動中及び睡眠中における神経活動の一過的な上昇は、幼鳥における歌学習だけでなく、成鳥における既に学習した歌の維持に重要な役割を果たす可能性がある。今後は、社会的隔離による歌学習の阻害が睡眠中やさえずり行動中における基底核ニューロンの神経活動にどのような影響を与えるか検討する。さらに、睡眠中における大脳基底核の神経活動の擾乱によって歌学習が阻害されるか否か検討する予定である。
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