C57BL/6Jマウスの大脳皮質第一次体性感覚野を観察対象とし、高分解能X線顕微鏡を用いて、皮質カラム内の神経細胞(ニューロン)及びシナプス構造の可視化を行った。まず始めに、SPring-8のBL20XUビームラインにおいて、X線吸収投影像を用いたマイクロCT法により、直径1mmの円柱サイズに含まれる大脳皮質ニューロン(ゴルジ染色)の観察を試みた。このときの空間分解能は1μm程度であり、その理由としてX線の回折及び検出器のボケなどが分解能を規定することが分かった。続いて、空間分解能を向上させるために、結像型のX線位相差顕微鏡を構築し、同様にCT法を組み合わせて、ニューロンの3次元再構築を行った。本光学系においては、空間分解能を200nm程度にまで上昇させることができ、上記の染色法を用いることで、ニューロンの3次元再構築を光学顕微鏡レベルの分解能で行うことが可能であった。しかし、さらに空間解像力が必要なシナプス部位の可視化までは到らなかった。分解能はX線顕微鏡に用いる光学素子(フレネルゾーンプレート)の精度に拠ることがわかっており、この光学系では、理論上の空間分解能は122nmであった。その後、理論分解能が55nmのX線結像顕微鏡を組み上げ、大脳皮質の超薄切片を用いた観察を行ったところ、細胞内小器官であるミトコンドリアとシナプス後肥厚部を同定することが可能であった。本光学系にCT装置を組み合わせることで、50nm分解能での3次元観察が可能となり、神経線維とシナプスの両方を3次元空間内に再構築することができる。それにより、神経回路の配線を追跡することが可能となり、神経ネットワークに基づく脳高次機能の作動原理を解明する糸口になることが期待される。
|