研究課題
大脳皮質形成過程において、脳室帯で誕生した未成熟神経細胞が特定の位置まで移動することは大脳が正しく機能するために必須の発生段階であり、この異常はてんかんや精神遅滞を伴う重篤な脳疾患を引き起こすことが知られている。我々を含むいくつかのグループは、JNKおよびCdk5が細胞骨格系の調節を介して神経細胞移動を制御していることを報告した。しかし、これまでに同定された分子経路のみでは神経細胞移動を説明することはできず、特に細胞骨格系以外の細胞現象の関与についてはほとんど分かっていない。細胞骨格系の上流にある細胞膜受容体が適切に機能するためには、膜輸送系が正しく制御される必要があることから、本研究では、膜輸送系と細胞骨格系の連携に着目して研究を行った。昨年度、簡便に個体への遺伝子導入を行える「子宮内エレクトロポレーション法」を用いて、膜輸送系の主要な経路であるエンドサイトーシス経路を制御するDynaminの機能を抑制すると、神経細胞移動が阻害されることを報告した。DynaminはCdk5の下流として機能することから、Dynaminが膜輸送系と細胞骨格系を連携している可能性が考えられる。しかし、Dynaminの機能抑制を行った脳では、遺伝子導入細胞の数が大きく減少していた。そこで、アポトーシスのマーカーである活性化カスパーゼ3に対する抗体染色を行ったところ、Dynaminの機能抑制を行った脳において、活性化カスパーゼ3陽性細胞の数が増加していることが分かった。よって、エンドサイトーシスの阻害は神経細胞移動の障害のみならず、アポトーシスを引き起こすことが分かった。来年度は、この神経細胞移動の障害がアポトーシスの2次的な影響なのかどうかを調べる。また、本研究では、我々が神経細胞移動に関与することを明らかにしたJNKが、軸索形成にも関与することも明らかにした。
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Neurosci. Res. 66
ページ: 37-45
http://web.sc.itc.keio.ac.jp/anatomy/nakajima/page10/page17/page17.html