神経再生医療の実現には、移植細胞の生着や神経幹細胞の増殖、分化を制御する細胞外マトリックス分子の機能解明が不可欠である。コンドロイチン硫酸(CS)は、発生過程のマウス脳室で神経幹細胞の表層や細胞外マトリックスに発現が認められ、神経幹細胞の増殖や分化を制御していると考えられている。成体の脳では、神経の傷害に応答したCS発現の増加が傷害部位で確認される。この脳神経系での発現パターンから、CSは神経の発生と再生を制御し、神経幹細胞を利用して再生医療の実現を左右する重要な分子であると考えられる。しかしながら、CSは、硫酸化により分子構造が複雑で不均一になるため、神経幹細胞の増殖、分化、接着、遊走の各プロセスにおいて機能する分子メカニズムはほとんど明らかにされていない。 CSは、硫酸化パターンの異なる5種類の基本二糖類(CS-AからCS-E)が様々な組み合わせで重合した直鎖状糖鎖分子である。胎生14日のマウス終脳から調整した培養神経幹細胞の培養液にCS-Eを多く含有するCSを添加すると、著しい細胞の接着・遊走変化が観察される。この変化は、CS-AからCS-Dを多く含有するCSでは認められない。またCS-E含有糖鎖による接着・遊走変化は、蛋白質合成阻害剤の存在下では観察されない。さらに、コンドイチナーゼABCで消化したCS-E含有糖鎖では、接着・遊走変化は起こらない。以上の結果は、CS(特にCS-E構造)が蛋白質合成を誘導し、硫酸化パターンと糖鎖長の違いにより神経幹細胞の接着・遊走を制御している可能性を示唆している。現在、CS-E構造により合成が誘導される蛋白質の同定と、その蛋白質を介した接着・遊走変化の分子メカニズムを検討中である。
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