これまで多くの細胞接着分子が神経回路の形成過程や形成後の神経機能を発揮する段階等に多面的に関与することが報告されているが、それらタンパクの多面的な機能が発揮できるのかについてはほとんど注目されていない。昨年度までに、ショウジョウバエの学習中枢キノコ体をモデルに用いて、細胞接着分子N-cadherinの時空間的な発現変化が神経の発達段階に応じた機能の違いに関係することを明らかにしている。今年度は、(1)このようなN-cadの機能変化が運動神経回路においても同様に観察できるか検証することによって、その普遍性を検証した。その結果、運動神経においても軸索伸長時に成長円錐から軸索まで一様に分布し、軸索の投射を制御していたが、完成した運送神経回路では、軸索の局在は下方制御されシナプス近傍に局在していた。シナプス近傍の局在は、神経伝達物質受容体の正常な分布に必要であった。このように、キノコ体だけでなく運動神経系においても、神経の成熟過程の間にN-cadの発現局在が時空間的に変化することが神経回路形成にとって重要であることが証明できた。(2)次に、これらN-cadの時空間的な発現変化が細胞自律的に制御されていることを、ショウジョウバエ神経細胞の初代低密度培の観察結果から明らかにできた。(3)さらに、N-cadの発現変化が陽イオンの細胞内流入によって誘導されることを、非選択的な陽イオンチャネルであるTRPA1の強制発現実験から明らかにした。このことから、新生神経の成熟過程における神経活動の開始に関連したCa^<2+>の流入がN-cadの発現変化の引き金となっている可能性が考えられる。
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