前年度では、前頭皮質4層のfast-spiking(FS)細胞が視床からの興奮性入力を細胞体で直接受けている可能性を示唆する結果を共焦点レーザー顕微鏡による観察から得た。実験には免疫組織化学的手法を採用した。FS細胞の識別には前年度と同様に、parvalbumin(PV)の免疫染色、若しくはvicia villosa agglutinin(VVA)を用いた染色後に蛍光色素であるLucifer yellowの微量注入を行った。皮質-皮質間の興奮性神経終末はvesicular glutamate transporter type 1(VGluT1)、視床-皮質間の興奮性終末はVGluT2、それぞれ特異的に局在するマーカー蛋白に対する抗体を用いた免疫染色により可視化した。前年度の結果をより確証あるものにするために、共焦点レーザー顕微鏡で観察してbouton appositionを確認した部分を電子顕微鏡観察でシナプス形成の有無について確認を行った。具体的には、PV/VVAにはDAB法を、VGluT1/VGluT2については銀増感法を用いて、それぞれの染色像の可視化を行った。この観察については現在も異動先である熊本大学 大学院生命科学研究部 形態構築学分野において継続して解析を進めている。さらに、今年度は視床-皮質間の興奮性神経終末が多く存在する前頭皮質4層と5層下部について、錐体細胞の樹状突起を同様の共焦点レーザー顕微鏡を用いた観察を行った。投射型の錐体細胞の樹状突起を可視化するためには逆行性トレーサーを注入して、投射型サブタイプごとに識別したのちに、それぞれの細胞にLucifer Yellowを微量注入した。上記と同様に皮質-皮質間/視床-皮質間の興奮性終末について蛍光免疫染色を施し、それぞれの樹状突起に対する、それぞれの興奮性終末のbouton appositionを観察した。この観察から、視床-皮質間の興奮性終末の多くは、投射型の錐体細胞の樹状突起上の棘突起に広範に付いていることが確認された。これらの結果は視床-皮質間の興奮性終末が前頭皮質の神経細胞には異なる入力を行っていることが示唆するものである。
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