本研究では、タウオパチー変性神経細胞の普遍的特徴である、微小管変性の位置づけについて解析したものである。前年度のタウ発現線虫を用いた解析により、2つの異なる方法におけるチューブリンの発現低下が、いずれもタウオパチーを惹起する事が示された。また、この神経変性がタウの発現量に厳密に依存することから、タウ/チューブリンバランスの異常な上昇がタウオパチー神経変性のきっかけになると考えた。本年度はさらに生化学的解析を進め、本仮説の焦点となりうるタウ/チューブリン複合体の同定、およびチューブリン過剰発現による症状改善の可能性について検討した。生化学的解析の結果、線虫に発現させたタウは高度にリン酸化されており、微小管への結合活性が失われていた。一方、微小管非結合画分に回収されるリン酸化タウは、これまでの想定に反し、チューブリンダイマーと安定な複合体を形成していることが明らかとなった。これより、タウオパチー発症にかかわるタウ/チューブリンバランスはこの可溶性の複合体がターゲットであると結論づけた。さらにin vitroの解析により、チューブリンの存在により、タウの重合、不溶化が抑制されることを見出した。これより、可溶性のチューブリンに替わるタウの結合パートナーがタウオパチーを抑制する可能性が考えられた。現在、mCherryにα-tubulinのC-末端51残基を結合させた融合タンパクmCh-C51が、タウと複合体を形成すること、培養細胞等において十分な発現が得られる事を確認している。さらに線虫神経系に対する発現ベクターの構築を終え、本仮説検証の最終段階である、レスキュー実験を進めているところである。本研究により、高齢者認知症の大多数を占めるタウオパチー発症について、新たな発症メカニズム、および新規治療法の可能性を提唱できたと考えている。
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