前頭側頭型認知症は、社会的にも注目を集めているが、現在もその本態は明らかではなく治療法も確立されていない疾患である。本研究は、患者脳に蓄積する凝集蛋白を直接解析し、病態の解明にせまることで根本的治療法の開発を目指すことが目的である。昨年度は、レーザーマイクロダイセクションシステムを用いて運動ニューロン病を伴う前頭側頭型認知症例の剖検標本の封入体を切離し、封入体に含まれる蛋白の質量解析を行った。 本年度は、引き続き質量解析を行うとともに、同定された蛋白とこれに関連する蛋白に対する抗体を用いて免疫組織学的検討を行った。質量解析では昨年度検出されたdermcidinのほか、keratin、actin、annexin、junction plakoglobin、tubulin、microtube関連蛋白などが同定された。この結果を受けて酸化ストレス関連蛋白、細胞骨格系蛋白およびオートファジー関連蛋白につき、免疫組織化学的検討を実施した。結果、主としてオートファゴソーム形成初期の膜隔離に関する働きを持つ抗-LC3抗体、抗Atg12抗体、抗Atg5抗体、抗Atg16抗体による染色で封入体に免疫反応を認めることを確認した。Dermcidinについては複数の抗体を用いて検討したが免疫組織学的な裏付けは得られなかった。以上から、運動ニューロン病を伴う前頭側頭型認知症の封入体形成にはオートファジーの機能不全が関与している可能性が示唆された。 本研究の結果は運動ニューロン病を伴う前頭側頭型認知症の病態解明への新しい知見を得た点で意義があるものであった。
|