研究概要 |
慢性疼痛の代表疾患である神経障害性疼痛は,体性感覚系に影響している損傷や疾患の直接的結果により生じる疼痛であり,難治性で鎮痛薬の効果が低く,患者や医療従事者に苦痛を与えている疾患である.坐骨神経障害後の脊髄では,後角側において活性型ミクログリアの増加,その細胞膜上でのP2X4受容体過剰発現,さらにBDNF放出やKCC2発現減少が生じることによりアロディニアを引き起こしていることが報告されている.しかしながら,疼痛の慢性化に伴う脳内での機能的変化については未だ明らかになっていない.そこで申請者は,ストレプトゾトシン誘発性糖尿病マウスと坐骨神経結紮モデルマウスを用いて,大脳皮質前帯状回シナプスにおける抑制性応答ついて検討した.その結果,両モデル動物の前帯状回II-III層およびV層錐体型細胞において,自発性抑制性シナプス後電流および微小抑制性シナプス後電流の特性に大きな差は見られなかった.一方,坐骨神経結紮に伴う脊髄内ミクログルアの増加をミノサイクリンで抑制することで疼痛を抑制できるのかについても検討を行った。その結果,ミノサクリンを結紮前から7日間反復投与することによりミクログリアの増加およびアロディニアは抑制されたが,結紮後からミノサイクリンを反復投与した群ではそれらの抑制は見られなかった.以上の結果から,ミクログリアの増殖を結紮後に抑制できれば神経障害性疼痛を治癒できる可能性が示唆される.しかしながら,ミクログリアの増加を抑制できるミノサイクリンは,結紮によりミクログリアの増殖スイッチが入った後では薬効が得られない.従って,今後さらに神経損傷により引き起こされたミクログリアの増加を減少させる薬物あるいは経路を明らかにする必要がある.
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