研究概要 |
糖尿病が前頭前皮質の機能に対して与える影響について、糖尿病モデル動物を用いて検討した。Streptozotocin(200mg/kg, i.v.)を処置して2週間飼育したマウスにおいて、著明な血糖値の上昇が認められた。この糖尿病モデルマウスの情動行動を高架式プラットホーム試験により評価したところ、すくみ行動時間が有意に増加していた。このことから、糖尿病はストレス刺激に対する適応行動表出機構に影響を与えることが示唆された。In vivo microdialysis法に従い、前頭前皮質の細胞外グルタミン酸量を高速液体クロマトグラフィにより定量した結果、糖尿病モデルマウスと対照群との問に有意な差は認められなかった。また、高濃度K+誘発性グルタミン酸放出量についても同様に評価した結果、糖尿病モデルマウスと対照群との間に差は認められなかった。一方、糖尿病モデルマウスの前頭前皮質を摘出し、グルタミン酸細胞内含有量を測定した結果、対照群と比較して有意に増加していた。このことから、糖尿病は前頭前皮質のグルタミン酸遊離機構を障害する可能性が示唆された。さらに、恐怖や嫌悪といった感情の調節に重要である扁桃体においても細胞外グルタミン酸およびグルタミン酸細胞内含有量を測定した。In vivo microdialysis法による検討の結果、糖尿病モデルマウスの細胞外グルタミン酸量は対照群と有意な差は認められなかった。また、扁桃体におけるグルタミン酸細胞内含有量も、糖尿病モデルマウスと対照群との間に有意な差は認められなかった。これらのことから、糖尿病は前頭前皮質のグルタミン酸遊離機能を変化させ、これが糖尿病によるストレス調節機能の障害に一部関与している可能性が示唆された。
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