これまでフラビンイメージング法を用いて、マウスの高次視覚領域の同定、反応特性、解剖学的結合、関連遺伝子、可塑性等を解明してきた。平成21年度はそれに加え各高次視覚領域の個々の神経の反応特性をユニットレコーディングにより解明した。それによりフラビンイメージングにより得られた反応特性が、その領域における神経活動を反映していることが確認できた。さらに個々の細胞の視覚刺激の方向選択性を解明した。第一次視覚野およびArea AL/AMの神経は、最適視覚刺激方向に対してだけでなくその反対方向に対してもよく反応し、このことはこれらの細胞がむしろ方位選択性を持つことをしめしている。またArea AL/AMはArea LM/RLに対して鋭い方向選択性を持っている。Area RLは速い最適視覚刺激応答性を持つだけでなく、前方から後方へ動くような視覚刺激によく応答し、このことは運動との関わり合いを示唆している。マウスの高次視覚機能はほとんど解明されてこなかったが、その大きな理由の一つに、マウスの視覚処理能力の低さが挙げられる。我々はその視覚能力の低さを、視覚研究に多く用いられるC57/B16系統マウス等によるものと考え、野生種に非常に近いMSM系統マウスを用いて研究を行つた。MSMマウスに形の変化する図形の視覚刺激を見せると、Area LIに反応が見られた。図形を左右に動かす刺激に対しては、第一次視覚野等は同様に反応したがArea LIでは反応しなかった。また同様の視覚刺激にC57/B16のArea LIは反応を示さなかった。この結果はArea LIが物体の形の認識に関わっている事を強く示唆している。またArea LIにトレーサーを注入することにより解剖学的な結合を観察し、他の領域と異なる回路を持つことが解明された。これらの知見は、マウス高次視覚機能の解明に大きく頁献するだろう。
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