研究概要 |
神経可塑性の1つである脊髄後角での中枢性感作は、炎症や神経損傷によって引き起こされる痛覚過敏やアロディニアのメカニズムと考えられている。また、近年、脊髄後角におけるグリア細胞が、これらの痛みに直接的に関与していることが示唆されている。本研究では、脊髄後角での中枢性感作へのグリア細胞の関与について、炎症性疼痛と、神経因性疼痛の2種類のモデルラットを用いて調べることを目的とした。実験の結果、ミクログリア抑制剤であるminocyclineは、ノーマル、炎症性疼痛、神経因性疼痛のすべてのラットの神経興奮を抑制したが、特に、神経因性疼痛ラットで顕著であった。非選択的ATP受容体阻害薬であるsuraminは、炎症性疼痛、神経因性疼痛ラットのどちらの神経興奮も抑制したが、特異的P2X1, 2, 3, 5受容体拮抗薬PPADSは、炎症性疼痛ラットの神経興奮を著明に抑制した。また、PPADS投与後の特異的P2X1, 2, 3, 4受容体拮抗薬TNP-ATPの投与では、神経因性疼痛ラットの神経興奮のみが著明に抑制された。したがって、炎症性疼痛の神経興奮の増大にはP2X4受容体以外のATP受容体が関与しており、神経因性疼痛の神経興奮の増大にはP2X4受容体が関与していると考えられる。また、p38MAPキナーゼの阻害薬であるSB203580は、すべてのラットにおける神経興奮を抑制したが、特に、神経因性疼痛ラットで顕著であった。これらの結果を、免疫染色によって検証した結果、神経因性疼痛ラットの脊髄にのみ、ミクログリアの形態変化およびp38MAPキナーゼのリン酸化の増大が見られた。また、ノーマルラットに比べて、P2X_4受容体を介したカルシウムシグナルがより多くのグリア細胞で見られ、より活性化されていることがわかった。これらの結果は、痛覚過敏が、脊髄後角内のグリア細胞にP2X_4を介した可塑的変化が起き、その変化が神経興奮を促進させるために起こることを示唆する。
|