光感受性受容体であるチャネルロドプシン-2(ChR2)は青色光に応答して陽イオンを細胞内に流入させて時間分解能良く細胞を興奮させるため、標的とする神経経路に特異的に発現させて神経活動を操作することができれば、神経経路の神経生理機能の解明に非常に役立つ。 大脳皮質運動野が大脳基底核を制御する機構を明らかにするため、平成20年度に引き続き、注入部位から逆行性に遺伝子導入できる狂犬病のGタンパクを利用したレンチウイルスベクターを用いて、大脳皮質-線条体経路あるいは大脳皮質-視床下核経路に特異的にChR2を発現させる遺伝子導入法の確立を試みた。濃縮方法と精製方法の改良により、平成20年度に作製したウイルスベクターよりも高力価のベクターを作製することができた。このウイルスベクターを野生型マウスの線条体に注入したところ、大脳皮質運動野および感覚野の第V層や視床の束傍核など、線条体に投射していることがよく知られている領域で、特に軸索においてChR2の発現が認められた。 そこで、このウイルスベクターを線条体に注入したマウスの大脳皮質運動野に青色光を照射するための光ファイバーと神経活動を記録するための記録電極を刺入し、光の照射で大脳皮質の神経細胞の興奮を誘導することができるのかどうかを検証した。その結果、青色光の照射に応答して弱いながらも大脳皮質の神経細胞に興奮が認められ、大脳皮質-線条体経路の興奮を特異的に誘導することができた。 この神経経路特異的に神経活動を操作する技術は、大脳皮質運動野が大脳基底核を制御する機構の解明だけでなく、他の脳領域における神経生理機能の解明に利用することが可能であり、今年度の研究成果は今後の神経生理機能の解明において大きく寄与することができると考えられる。
|