大脳皮質運動野が大脳基底核の神経活動と運動機能を制御する機構を解明するためには、大脳皮質-線条体経路や大脳皮質-視床下核経路の役割を明らかにすることが必須である。大脳皮質-線条体経路の役割を解析するため、大脳皮質-線条体経路に光受容体のチャネルロドプシン-2(ChR2)を選択的に発現させ、光刺激により大脳皮質-線条体経路の興奮を特異的に誘導し、大脳基底核を構成する神経核の神経活動の変化および運動の変化を解析することにより、大脳皮質-線条体経路の役割を解明しようと試みた。 大脳皮質-線条体経路に特異的にChR2を発現させるため、平成20、21年度に引き続き、注入部位から逆行性に遺伝子導入できる狂犬病のGタンパクを利用したレンチウイルスベクターによる遺伝子導入法の改良を試みた。これまでの方法ではChR2の発現量が少なく、光照射に応じて大脳皮質-線条体経路の十分な興奮誘導が認められなかったことから、ウイルスベクターの注入回数を増やした。その結果、大脳皮質運動野の第II層や第V層などにこれまでよりも多量のChR2を発現させることが出来た。 そこで、ウイルスベクターを数回注入したマウスの大脳皮質運動野に光ファイバーと記録電極を刺入し、光照射により大脳皮質-線条体経路の興奮を誘導することができるのかどうかを検証した。その結果、光照射に応答して大脳皮質の神経細胞に興奮誘導が認められ、大脳皮質-線条体経路の興奮を特異的に誘導することができた。現在、大脳皮質-線条体経路を特異的に興奮させたときの淡蒼球外節や黒質網様部における神経活動を引き続き記録している。 この研究課題において確立した技術は、大脳皮質-大脳基底核の制御機構の解明だけでなく、他の脳領域における神経生理機能の解明に利用することが可能であり、この研究成果は今後の神経生理機能の解明において大きく寄与することができると考えられる。
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