「研究の目的と実施計画」 霊長類の滑らかな運動の学習メカニズムを明らかにするが目的である。そのため、「学習の座は小脳にある」という仮説に基づき、これまでの研究で追従眼球運動を対象とした制御モデルを構築し、シミュレーションした。そのモデルから、学習中の大脳皮質後頭・頭頂連合野の一部であるMST野および小脳腹側傍片葉のニューロン活動が予測された。本研究では、実際の慢性電気生理実験によって各脳領域から単一ニューロン活動を記録し、シミュレーションによって予測されたニューロン活動の時間波形およびそこにコードされている情報を比較・検討することを目標とした。 本年度は、2頭のサルを用いて、追従眼球運動の運動学習課題を行わせ、それぞれ大脳皮質MST野および小脳腹側傍片葉から単一ニューロン活動の記録を行った。これまでに蓄積した運動学習中および学習成立後のオーバートレーニング中の大脳皮質MST野のニューロン活動に含まれる情報を解析した。その結果、大脳皮質MST野のニューロンの多く(7割)は、学習前後で活動を変化させなかった。さらに変化したMST野のニューロンについても、ニューロン活動の変化が学習後に生じていることが分かった。この結果は、少なくとも大脳皮質MST野では運動学習の初期学習効果の原因となる神経活動が生じていないことを明らかにした。
|