研究概要 |
本研究の目的は、2光子励起が可能なケージドCa試薬をラット脳幹スライス上の巨大神経終末端内にパッチクランプ電極を用いて注入し、2光子励起刺激により局所的なCa濃度上昇を引き起こすことによって、従来不可能であった単一アクティブゾーンレベルでのシナプス小胞動態の解析を可能とすることであった。実際に実験を進めてみると、ケージドCa試薬の神経終末端への注入・2光子励起刺激・局所的Ca濃度上昇の測定には成功したものの、Ca濃度上昇が単一アクティブゾーンを超える空間的範囲で起きてしまうという問題が生じた。原因としては、細胞外においてケージド試薬を2光子励起刺激する場合とは異なり、神経終末端内では物質の拡散が限定されるために、局所的Ca濃度上昇の空間的なコントロールが非常に難しいことが考えられる。 この問題を別角度から解決するため、CaキレーターのCaに対する結合速度の違いを利用して、Caチャネル近傍とチャネルから離れた部分を機能的に分離して解析することとした。そして、巨大神経終末端からの膜容量測定法とCaキレーターの導入を組み合わせることによって、(1)Caナノドメインと呼ばれるCaチャネル最近傍におけるCa濃度上昇が小胞エンドサイトーシスに不可欠であることや、(2)この性質は、脳幹巨大シナプスcalyx of Heldにおいては、シナプスの生後発達を経て完成し、それに伴いCaの下流反応経路も様変わりするということを明らかにすることができた(Yamashita et al., 2010, Nat.Neurosci, 13, 838-844)。これを踏まえて、小胞エンドサイトーシス研究のメインストリームはCaの下流分子の探索や反応系の空間的制御機構へと移っていくことが予想される。
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