研究概要 |
骨格筋特異的幹細胞である、筋衛星細胞は筋再生のキープレイヤーであり、その欠損は筋形成、筋再生の重篤な異常をきたす。申請者は活動期筋衛星細胞と静止期筋衛星細胞の遺伝子発現解析により、静止期筋衛星細胞でのみ特異的に発現している遺伝子を複数同定している。その中の一つカルシトニン受容体は培養系の実験から筋衛星細胞に対して増殖・運動抑制作用を示すことを明らかにしている。昨年度までの研究成果を踏まえて、カルシトニン受容体が筋衛星細胞の運動抑制に与えるシグナル経路を検討した結果、Akt pathwayの可能性が考えられた。またカルシトニン受容体シグナルは筋衛星細胞の細胞骨格に影響を与えることも明らかとなった。総括として筋衛星細胞におけるカルシトニン受容体シグナルは一般的なPKA, PKC経路ではなく、Akt等の他のpathwayを介して作用していると考えられた。現在コンディショナルカルシトニン受容体欠損マウスの作成を進めており、ES細胞の樹立まで成功している。 カルシトニン受容体以外の静止期筋衛星細胞に発現する因子として、Notchのeffector geneであるhesr1とhesr3に注目し、それぞれの単独欠損マウスでは骨格筋に表現型が見られなかったので、二重欠損マウスを作製し解析を行った。その結果、hesr1/3二重欠損マウスでは7-8割の筋衛星細胞数の減少が見られ、発生過程ならびに再生過程でコントロールマウス程の筋重量を維持出来ないことが明らかとなった。現在、なぜ、二重欠損マウスでは筋衛星細胞数が減少するのかを調べている。 更に申請者はマウスの系統間で筋再生能力が大きく異なり、筋衛星細胞の自己複製能も系統間で差があることを明らかにした。本研究とこれまでの静止期筋衛星細胞特異的遺伝子の成果を組み合わせることで、カルシトニン受容体やhesr1/3以外の分子にも今後注目して行く予定である。
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