心筋梗塞や脳卒中などの血管病は合計すると日本で第2位の死因である。中でも、前触れなく突然発症する異常収縮(=血管攣縮)は突然死の主因として恐れられている。この血管異常収縮は、血圧維持に関わる、カルシウム依存性の正常収縮とは異なり、Rhoキナーゼによるカルシウム非依存性の異常収縮であることが分かっている。我々は、Rhoキナーゼの上流の病的経路として、SPC⇒Fyn⇒Rhoキナーゼ経路を見出した。本研究では、Rhoキナーゼによるカルシウム非依存性の異常収縮について、その分子機構を明らかにするため、時空間的ナノシステムによるリアルタイム可視化システムを構築して、血管異常収縮を直接観察し、解析することを目的とした。 本年度は、昨年度in vitro motility assayを基盤として確立したナノ測定システム、すなわち、平滑筋ミオシンによるアクチンフィラメントの滑り運動速度を1分子ナノレベルにおいて、リアルタイム可視化測定するシステムを使用して、血管平滑筋の異常収縮をナノ解析することを目指して実験を進めた。 具体的には、まず、昆虫細胞とバキュロウイルスの発現系を用いて、リコンビナントミオシンを発現、高純度精製した。精製した平滑筋ミオシンの制御軽鎖が、非リン酸化状態であることを質量分析計であきらかにした。さらに、精製した平滑筋ミオシンの制御軽鎖は、カルシウム非存在下であっても、リコンビナントRhoキナーゼによって、リン酸化されることを、リン酸化蛋白質染色薬であるProQ Diamondで検出することに成功した。そこで、昨年度確立したナノ測定システムを用いて、Rhoキナーゼでカルシウム非依存的にリン酸化されたミオシンについて解析を行い、カルシウム非依存的にRhoキナーゼによる平滑筋の異常収縮がひきおこされることをリアルタイムナノ可視化により、in vitro測定することに成功した。
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