被毛形成異常を呈する突然変異動物であるmatted(ma)マウスについて、その原因遺伝子の解明を目的として実験計画を遂行した。maマウスの原因遺伝子座はマウス3番染色体上に存在し、前年度までの遺伝解析により候補領域をD3Mit40-0.85cM-ma-0.85cM-D3Mit49の範囲に狭めることができた。約1100Kbに相当する原因領域には48遺伝子が存在することが判明しており、表皮分化複合体(Epidermal Differentiation Complex : EDC)として知られた遺伝子クラスターが隣接してしていることからも本遺伝解析は良好に行なわれたと考えられる。 今年度は該当遺伝子の内残りの28因子に関してmaマウスおよびコントロール皮膚cDNAを用いてRT-PCRによる発現量解析および塩基配列の解析を継続した。しかしながら、maマウスにおいて原因遺伝子の変異と考えられる塩基配列の異常は検出できなかった。変異遺伝子が同定できなかった理由として以下の点が考えられうる。 ・ 今回の塩基配列の解析は基本的に遺伝子の蛋白コード領域のみを対象に解析しており、mRNAの5'および3'非翻訳領域の配列がmRNAの転写・分解や蛋白の翻訳をコントロールしている可能性が考えられる。 ・ また毛包組織特異的なプロモーター領域におけるDNA配列の変異の可能性も考えられる。 単純な読み間違えという可能性もあり、検体動物を増やして遺伝解析により原因領域を可能な限り狭めること、および各遺伝子の毛包における局在を明らかにすることで候補遺伝子のセレクトを行うなど地道で誠実な実験手法で対応していくことも必要である。皮膚科学領域だけでなく細胞増殖・分化のコントロールに関しても興味深い研究テーマであるので、必ず原因遺伝子を解明できるよう本研究期間が終了しても解析を継続していきたい。
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