本研究では、実験動物として汎用性の高い齧歯類におけるフリーズドライ法を用いた精子室温保存法の開発に関する基礎的研究を行った。精子の室温保存法の開発は、バイオリソース事業において革新的な技術であり、フリーズドライ法は現在、最も室温保存が可能な方法として挙げられる。マウスにおいては、これまでに多くの研究が行われているが、ラットにおいては研究報告が少ないのが現状である。そこで本年度は、ラット精子のフリーズドライに対する耐性および保存後の受精能についての評価を重点的に行うことで、室温保存開発に必要な基礎的研究を行った。まず、ラット精子をTrisおよびEDTAからなる保存液に懸濁した後フリーズドライを行い、これら精子を4℃で長期保存した。その結果、4℃で1年間長期保存した精子においても高い受精能を保持しており、得られた胚は産子にまで発生することが明らかとなった。保存中の精子において経時的にクロマチン解析を行った結果、フリーズドライ直後の精子においてはクロマチンが正常に保たれていたが、保存環境がクロマチンにダメージを与えることが明らかとなり、これにより受精能が低下すると考えられた。本研究期間において、ラットフリーズドライ精子の4℃での長期保存が可能であることが示唆された。また、クロマチンの正常性が室温での長期保存に必要なファクターであることが明らかとなった。今後の研究の継続により、齧歯類精子の室温保存法実現に向けたアプローチを展開したい。
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