本研究では、肺パスツレラ菌が保有するRTX(repeat in structural toxin)toxinを同定しその機能を明らかにし、さらにその検出法を開発することを目標に実験を遂行した。これらの結果、PnxIA、PnxIIAおよびPnxIIIAという3つのRTX toxinを肺パスツレラ菌が産生することがわかった。PnxIAおよびPnxIIAはヒツジとマウス由来の赤血球に対して弱溶血性を示したが、PnxIIIAは明確な溶血性を示さなかった。細胞傷害性については、J774A.1細胞株を用いてラクトースデヒドロゲナーゼの放出量を指標に検証したところ、3種のRTX toxinとも細胞傷害性を示し、とくにPnxIAとPnxIIAが高い細胞傷害性を示した。PnxIIIAについては、部分的にイムノグロブリン様ドメインや赤血球凝集に関与するリピート配列が存在することから、細胞外マトリックス(ECMs)への付着能やヒツジ赤血球に対する凝集反応性について試験を行った。その結果、供試したECMsの中でもラット由来のコラーゲンタイプIに対してとくに付着性が高く、約30ng/mlで赤血球凝集反応を起こすことが明らかになった。免疫電顕などの結果からPnxIIIAは肺パスツレラ菌の細胞外膜上に存在することからPnxIIIAは付着因子として働くことが示唆された。これら肺パスツレラ菌のRTX toxinの野生株からの検出には、PCRやサザンハイブリダイゼーションなどの遺伝子からの検出も可能であるが、非特異反応が起こる場合も多く、抗体を用いたタンパク質の検出のほうが高い正確性を示した。しかしながら、野生株においてはとくにPnxIIAやPnxIIIAの多様性が高く、RTX toxinの同定や検出法の開発には様々な手法をさらに検証する必要がある。
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