研究概要 |
血小板による一次血栓における主要な血漿タンパク分子であるフォンウィルブランド因子, および, フィブリノゲンの力学特性をレーザーピンセットを用いた計測、および, 分子動力学シミュレーションを用いた解析により予測した. これらの血漿タンパク分子の引張り・圧縮などの力学的負荷に対する応答を評価し、分子結合強度, 復元力、反発力などの力学特性に関する情報を得るとともに、粘着力(血小板-血小板間), および, 凝集力(血小板-血管壁間)それぞれについて分子架橋の力学モデルの構築を行った. 今後は、構築された分子架橋モデルと, 血液流動下における血小板の流体力学的相互作用を解析するための流体力学モデルとを統合し, 各種の生理学的条件下(血管壁性状, 血液流動状態、血液構成成分など)における一次血栓形成の力学的機序を観察することができる計算力学シミュレータを開発する計画である. 本研究で構築した分子架橋の力学モデルは, 分子架橋の根本的担い手である血漿タンパク分子個々の力学的挙動を反映するものであり, 従来の単純化された巨視的な力学モデルを一新するものである. 今後計画する計算力学シミュレータの開発が実現すれば, 血漿タンパク分子個々の生化学的ふるまいを背景とした血栓形成の病態生理学的メカニズムの解明が可能である. 止血血栓、病的血栓、出血症状などが, どのような生理学的条件の組み合わせにおいて生じるのかを明らかにするものと期待される.
|