研究概要 |
平成21年度に確立・開発した一次血栓形成力学シミュレータを用い,各種の生理学的条件についてパラメトリックシミュレーションを行った.入力パラメータとして,血管壁形状,ずり速度,血漿タンパク分子密度(傷害血管壁上),および,血漿タンパク分子密度(血小板上)を選択し,それらの様々な組み合わせ条件下における一次血栓形成過程を解析した.得られた血栓形成過程より,どのような条件の組み合わせにおいて,止血血栓,病的血栓,および,血栓形成不良が起きるのかを検討し,その病態生理学的意義を考察した.血管壁形状には3通り(正常,中程度狭窄,重度狭窄),ずり速度には3通り(100,500,1000[s-1]),血漿タンパク分子密度に関しては,傷害血管壁,および,血小板それぞれについて3通り,さらに,vWF,および,Fbgの2種について解析した.以上より,本研究で開発した血栓形成力学シミュレータにより,血管性状,血液流動状態,血液構成成分など血栓形成の三大要素として指摘される各種生理学的条件を反映した血栓形成過程の解析が可能であることを確認した.実験結果との比較による本シミュレータの実証までには至らなかったが,今後さらに改良することにより,止血血栓,病的血栓におけるそれらの重みづけを定量的に評価することが可能となり,その病態生理学的メカニズムの解明に新しい知見を与えることが期待される.さらには,臨床医療現場における,これまでの経験的治療策定,たとえば,薬剤の投与量などを,力学的根拠にもとづいた定量的な判断へと修正する可能性を持っている.このことから,本研究課題は,血栓症や,出血症など血液疾患の治療・予防の質的向上に大きく貢献するものと期待する.
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