細胞の変形メカニズムを、力、アクチン、ミオシンをもとに説明することを目的として、細胞のエッジの突出・退縮ダイナミクスとアクチン局在を調べた。不規則な形状の細胞は、定量解析が難しいため、細胞の形を円盤形にコントロールして実験を行った。形をコントロールした細胞においても、エッジは非常にダイナミックに運動しており、突出・退縮は一見複雑に見える。しかし、突出・退縮スピードの時空間パターンを調べた結果、突出部分、退縮部分が細胞のエッジに沿って一定の速さで移動していることがわかった。この結果は、突出・退縮活性を維持するフィードバックメカニズムの存在を示唆している。また、突出・退縮スピードとエッジの形状(曲率)には相関があることもわかった。様々な空間スケールでエッジの曲率を求める手法を確立し、解析を行った結果、着目する空間スケールにより、正の相関をとったり、負の相関をとったりすることを明らかにできた。これらの結果は、細胞の変形メカニズムを理解する際、空間スケールに着目することの重要性を示唆している。小さな(マイクロメートルオーダー)空間スケールでの解析結果は、膜張力とアクチン重合による力により説明できると考えている。アクチン、ミオシンの空間分布も考えあわせて、その妥当性を検討したい。加えて、より大きな空間スケールでの解析結果の考察も進めたい。様々な空間スケールで、力学的・分子的両観点からの実験・解析結果を統合し、アクチン-ミオシン相互作用という分子レベルの現象と、細胞の変形という細胞レベルの現象を結びつけて細胞の変形メカニズムを理解することが目標である。
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