本研究では、金属基材からなる、細胞親和性の高い薬剤溶出ステントの開発を目的とする。本年度は、細胞親和性を有するアンカー分子を導入するため、金属表面の酸化物層の厚さ・組成・化学状態について検討した。 金属基材としては、生体為害性のNiをNで置換した、Niレスのステンレス合金(Fe-24Cr-1.1Mo-5.1N(at%))を用いた。基材は、0.1Nの水酸化ナトリウムとアセトンを用いて脱脂したのち、大気雰囲気下、種々の温度で2時間加熱処理し、表面に酸化物層を形成させた。表面の酸化層は、X線回折測定(XRD)、X線光電子分光法(XPS)および原子間力顕微鏡(AFM)を用いて調べた。 800K〜1200Kで酸化物層形成させたところ、XRD測定より、いずれの表面からもγ-Feが検出された。AFM測定より、処理温度の上昇とともに粒成長がおこり、表面粗さが増加することがわかった。XPSを用いた酸化物層の深さ方向分析より、表面の酸化物はFe2O3とCr2O3であり、処理温度によって表面から内部に向けて組成が変化していることがわかった。これは、γ-Fe中のFeおよびCrの拡散係数によって説明ができた。拡散係数は、温度の上昇とともに増加するが、いずれの温度でもFeよりCrの方が高かった。このため、800Kで形成した酸化物層では主成分であるFe203の割合が高く、1200Kで形成した酸化物層ではCr203の割合が高かった。 アンカー分子としてアミノ基末端のγ-aminopropyltriethoxysilaneの導入を試みたところ、Fe203割合の高い表面へ効率的に結合した。このことから、金属表面の酸化物層の制御によって、アンカー分子導入の最適化を図ることができた。
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