本研究では、金属基材からなる細胞親和性の高い薬剤溶出ステントの開発を目的とする。薬剤担持層の溶出後の基材表面は、血管内皮細胞の適合性を有することが望ましい。金属基材表面に、薬物担持層のアンカーとなりかつ細胞親和性を有する表面修飾を行う。本年度は、厚さ・組成・化学状態を制御した金属表面酸化物層へ導入した、細胞親和性アンカー分子のキャラクタリゼーションと細胞接着試験を行った。 金属基材としては、生体為害性のNiをNで置換した、Niレスのステンレス合金(Fe-24Cr-1.1Mo-5.1N (at%))を用いた。基材は大気雰囲気下、種々の温度で加熱処理し、表面に酸化物層を形成させた。表面の酸化層は、X線光電子分光法(XPS)および透過型電子顕微鏡法(TEM)を用いて調べた。細胞親和性アンカー分子としてはアミノ基末端のγ-aminopropyltriethoxysilane (APS)を用い、トルエンの希釈溶液中に基材を浸漬させることで表面へ導入を試みた。 600K~120OKで酸化物層形成させたところ、表面の酸化物は低温からFe2O3、Fe2O3とCr2O3、Cr2O3となり、FeおよびCrの拡散係数の違いから表面酸化物層の形成が制御できることがわかった。また、APSの導入量は、Fe2O3の割合が多いほど増加することが明らかとなった。PBS中での1ヶ月間の安定性を調べたところ、Fe2O3の割合が多いほどAPSの固定化量が多いことがわかった。固定化された試料表面層の断面をTEMにより調べたところ、酸化物表面に1~2nmのAPS層が形成していることが観察された。600Kで形成させた酸化物表面に固定化したAPS表面で、正常ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を用いて細胞接着試験を行った。APSを固定化した表面では、コントロール表面(Niレスステンレス合金、600Kで酸化処理したNiレスステンレス合金、ステンレス316L合金)と比較して、細胞の伸展性に優れていた。以上のことより、金属表面の酸化物層を制御することで、細胞親和性アンカー分子を多量かつ安定に導入できることを明らかにした。
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