当該年度では、心血管系組織に発現するN-アセチルグルコサミン(G1cNAc)結合タンパク質が、細胞骨格分子であるビメンチンとデスミンであることが見出された。これらのことから標的を心血管組織に限らずデスミンやビメンチンを発現する他の組織にも広げて検討を行った。デスミンを発現する細胞として肝臓組織に存在する星細胞を標的とした薬物輸送システムの開発を試みた。星細胞は、肝臓の細胞外マトリックスや増殖因子を産生する肝非実質細胞として知られているが、肝臓の障害によって活性化し繊維化を引き起こす細胞として知られている。そして、活性化した星細胞はデスミンを発現して筋線維芽細胞に変化することが知られている。そこで、この筋線維芽細胞を標的とすることは肝繊維化の治療において有効な手段である。当該年度ではこの星細胞に対してG1cNAc修飾リポソームが選択的に取り込まれるかを検討した。はじめにビメンチンを発現するHeLa細胞に対してG1cNAcとの相互作用があるか検討を行った。その結果、HeLa細胞はG1cNAc糖鎖高分子であるPV-G1cNAcに対して高い相互作用を有していることが明らかになり、さらにG1cNAc修飾リポソームもまたHeLa細胞に取り込まれることが見出された。また蛍光標識したオリゴヌクレオチドもG1cNAc修飾リポソームに封入することで、HeLa細胞に取り込ませることができることも明らかになった。そこで、星細胞について検討を行ったところ、同様にG1cNAc修飾リポソームやPV-G1cNAcに対して高い相互作用が観察された。しかしながら、デスミンやビメンチンを発現しない肝実質細胞には相互作用が無く、星細胞選択的にG1cNAcが相互作用することが明らかになった。以上のことから、G1cNAc修飾リポソームを利用することでビメンチンやデスミンを発現する組織や細胞に薬物輸送システムを構築できることが見出された。
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