研究概要 |
ナビゲーションシステムにおける重要なポイントは術前画像から作製したバーチャルな空間と術中の作業情報を計測して得られるリアルな空間との一致である.本研究が対象とする大血管外科では,開胸後に画像を撮像する時間的余裕がなく,生体の状況を常に把握しながら短時間で効率よくレジストレーションを済ませる必要がある.血管の破裂の危険性を孕む中で,血液を遮断し,人工血管へと置換する大手術であるためである.そこで,骨や血管といった解剖学的特徴点を事前に画像上で決定し,手術中は患者体内の対応箇所を手術者が選択することで,レジストレーションに利用している. これまで,目標血管周辺の詳細な情報が得られる局所画像を用いてナビゲーションを行ってきた.しかし,実際は画像で見るように明瞭にレジストレーションの位置を特定することは難しい.開胸後に広い手術野を確保できない場合も多く,限られた局所の領域を見て,手探りで特徴点を探すことになる.相対的に動きが少ない点と考えられる骨の特徴点を選べばよいが,それにはシステム利用の慣れを要した. そこで,本研究では手術者のスキルの差に依存しないシステムヘ改良する.本年度は,開胸前に体表上から体内の骨や血管の立体的位置関係を把握し,作業を進めることができるよう大局画像を用いたナビゲーションを導入し,さらに局所画像を用いたナビゲーションを併用した. 大局画像ナビゲーションでは,体軸に近く,解剖学的に頭足方向の動きが小さく,皮膚の上から触っても位置が確認できる特徴のある部位(胸骨角,剣状突起,左肋骨弓等)をレジストレーションに用いた.9症例に応用したところ,ナビゲーションを施行する上で,いずれの場合も隣り合う肋骨と間違えることはなかった.
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