研究概要 |
本研究では胸腹部大動脈瘤の手術を対象にした手術ナビゲーションシステムを開発してきた.研究の最終目標はスキルの高い手術者だけでなく,経験の少ない手術者であっても使いやすいシステムにすることである.そこで,前年度までに,開胸前に皮膚上から特徴点を選択する大局レジストレーションを導入した.これには,複数人で確認しながら特徴点の探索ができ,スキルに差が生じにくいというメリットがある.一方で,特徴点の大まかな位置の把握は容易になったが,患者の皮下組織厚や特徴点計測時のポインティングの仕方などによる計測誤差があることがファントム実験を通して明らかになった. 本年度は,皮下組織の厚さ補正を行うアルゴリズムを提案し,臨床データでの調査を試みた.まず,骨の特徴点とその体表面上の計測点までの位置関係の分布をモデル化する.このモデルに対し,事前にファントムを対象にした実験を行った結果を適用することで,皮下組織厚と計測誤差分布との関係を特徴点ごと,3軸にそれぞれ求めた.計測点の位置とその箇所の皮下組織厚に応じて骨上の点での位置を推定し,レジストレーションに利用した. 患者(皮下組織厚:平均)1名の体表面レジストレーションを対象にオフラインで本アルゴリズムを適用した.レジストレーション点は頚切痕,左前腸骨棘,恥骨稜とした.アルゴリズム適用前後で44%改善した.本例については,頭足方向には5mm以内の誤差範囲におさえることができ,これにより,肋間の間違えを防ぐことができると考えられる.皮下組織厚が大きい場合の補正限界については,十分な検討が求められるが,平均的な皮下組織厚をもつ患者については体表面レジストレーションでの誤差改善の手法として,有用といえる.
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