昨年度の報告で、調査対象となった難聴児の約20パーセント程度に何らかの言語ドメインの低下を確認している。本年度はこれらの児に対する効果的な介入方法の検討を行った。特にリテラシーや特に統語方略語順や助詞が達成されていない構文処理の問題を抱えた児を検出し、効率的な指導方法を検討した。読み書きの困難さを抱えて言語学習を含め教科教育に問題を来たしたと考えられた児1例と、理解語彙の選択的な低下を示した症例2例、統語の発達段階に課題を来たした児4例を対象とした。読み書きの困難さを抱えた児は、背景となる視覚的情報処理過程の課題は軽度であったが、学習全般に及んだ影響は重篤であった。認知処理過程の個人内差と感覚器レベルでの保たれた入力経路が相違が効果的な学習を大きく阻害した結果であると考えられた。語彙の低下を示した二例は受容型SLIの様相を示し、その認知的背景も告知していた。同事例に対しては受容型SLIの指導において有効であるとされる指導方法の適用の可能性が示唆された。統語の段階に問題を抱えた児は全て格助詞の理解の段階での躓きを示しており難聴児の言語発達での特徴とされる「やりもらい文の理解が難しい」の背景にはその前段階の統語レベルの未成熟さが影響していると考えられた。統語の段階は意味(語彙)の段階とも密接に関連しており、言語ドメインごとに問題点を切り分けて指導のポイントを明確にすることは、コミュニケーションの発達を促す効率的な指導を立案する上で必須である。
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