本研究では、片麻痺患者の動作学習効果に違いが生じる一因として、患者が麻痺後の自分の動作能力を正しく把握(イメージ)できていないことが考えられるのはでないかと仮説を立て、患者の実際の動作能力とイメージ上の動作能力を評価し、両者の差(イメージのズレ)が動作学習に及ぼす影響について検討を行った。 本年度は、日常的課題(着衣動作)と非日常的課題(新聞紙やぶり)の2つの動作課題について、イメージ上の動作能力と実際の動作能力との差(イメージのズレ)を評価し、麻痺の程度などの運動機能レベルや実際の動作能力、発症からの経過期間などによって、患者が描く自分の動作能力についてのイメージ内容やイメージのズレの程度に違いが生じるのかについて検討を行った。対象は、脳卒中発症後6ヶ月以内の右片麻痺患者35名であり、上肢の麻痺の程度はBr. stageIIIが13名、IVが6名、Vが16名、感覚障害・高次脳機能障害・認知症症状・失語症が認められないことを確認した。 研究の結果、患者のイメージ上の動作能力は実際の動作能力と異なる場合が多かった。その差(イメージのズレ)は、特に日常的課題において非日常的課題よりも有意に大きく(p<0.05)、日常的課題では実際の動作能力よりもイメージ上の動作能力の方が有意に高くなった(p<0.01)。また、日常的課題・非日常的課題ともに、その動作課題についての実際の動作能力とイメージのズレとの間には有意な相関が認められ(日常的課題p<0.01、非日常的課題p<0.05)、実際の動作能力が高い者ほど実際の動作能力とイメージ上の動作能力との一致度が高く(イメージのズレが小さく)、実際の動作能力が低い者ほどイメージのズレが大きくなった。しかし、日常的課題・非日常的課題ともに、イメージのズレと、麻痺の程度などの運動機能レベルや発症からの経過期間との間には関連が認められなかった。
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