本研究では『動作イメージ』を用いた新たな動作学習方法を確立することを目指し、片麻痺患者の実際の動作能力とイメージ上の動作能力の差(イメージのズレ)が動作学習に及ぼす影響について検討を行った。前年度の研究では、患者の動作イメージのズレについて横断的調査を実施し、イメージのズレは日常的な動作課題ほど、また実際の動作能力が低い者ほど大きくなるが、麻痺の程度や発症からの経過期間にはよらないことが確認された。本年度は、患者の動作イメージを縦断的に調査し、動作イメージのズレがその後の動作能力の向上に与える影響について検討した。 対象は、前年度の対象者35名のうち再調査に対する同意を得られた16名であり、前年度調査から再調査実施までの平均経過日数は57.7±17.6日だった。上肢の麻痺の程度はBr.stageIIIが7名(前年度10名)、IVが5名(前年度3名)、Vが4名(前年度3名)だった。 研究の結果、前年度の調査で明らかとなったイメージのズレが今年度の調査時にも残存した者(イメージのズレを修正できなかった者)は、非日常的課題よりも日常的課題で多いことが確認され、非日常的課題よりも日常的課題の方がイメージの修正が困難であることが示唆された。また、実際の動作能力とイメージ上の動作能力が一致している(イメージにズレがない)場合にはその後に実際の動作能力が向上するケースが多かったが、イメージにズレがある場合にはその後も実際の動作能力が向上しないケースが多いことも明らかとなった。 以上より、日常的課題のような既に一度自動化された動作では片麻痺発症後も過去に確立された動作イメージを修正することは困難であるものの、実際の動作能力とイメージ上の動作能力が一致していることがその後の動作能力を向上させ適切に動作学習を進めるための必要条件であることが示唆された。
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