研究概要 |
1. 健常者を対象としたプリズム順応課題に用いる刺激の提示位置の検討. プリズム順応課題では,被検者がプリズム眼鏡を装着して視標へ向けて到達運動を行う.その際,左右5箇所へ刺激を提示するよりも左右に1つずつ計2箇所へ視標を提示したほうがプリズム順応による効果が大きい傾向にあった.この結果は,刺激の提示位置を多くしても順応による効果は増大しないことを明らかにしている.左半側空間無視を呈する患者の中には,左側へ刺激を提示するとそれを見つけることが困難となる場合があるが,2箇所への刺激提示であれば,こうした患者も刺激を見つけやすいのではないかと考えられる.この結果より,今後は,刺激の提示を2箇所として,データの収集を行う. 2, 線分模写課題の課題特性に関する検討 左半側空間無視患者に対して線分模写課題と線分二等分課題を実施し,各課題から得られた成績を比較検討した.その結果,前者の課題で半側空間無視が認められても,後者の課題ではそれが認められないことや,その逆も確認された.つまり,同じ線分を扱う課題であっても,両者の課題には異なる空間性注意機能が関与することが明らかとなった.また,線分模写課題を用いた症状の下位分類とそれぞれに対する責任病巣に関する検討では,刺激を中心とした左無視のみを呈する症例を経験することができなかった.今後も右半球損傷例の評価を継続し,このタイプの無視患者が存在するのか否かを検討する必要がある. 3, プリズム順応課題に用いる刺激の提示方法の検討. 前年度に刺激の提示方法を変更することでプリズム順応の効果が異なる症例を経験したので,これを元に別の患者に対しても同じ方法で実施した.その結果,この症例はいかなる刺激の提示方法を用いてもプリズム眼鏡に順応しなかった.プリズム順応によって成績に改善が認められない患者の中には,プリズムに順応しない症例が含まれることが明らかとなった.
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