研究概要 |
脳梗塞後の麻痺回復に関わる運動制御には、梗塞巣周囲の大脳皮質における機能的役割が推察されるが、その分子変化については不明な部分が多い。そこで、2時間20分の中大脳動脈閉塞後、再灌流を行った脳梗塞モデル動物を用い、FITプログラムに準じて週7日の訓練を2週間毎日行い、運動学的機能評価と大脳皮質におけるantibody microarray解析を行った。脳梗塞手術2日後より1日12時間のランニングホイールを用いた自発運動訓練を行ったexercise群(n=10)と、訓練を行わないcontrol群(n=10)の2群間で、運動機能評価であるrotarod testの経時変化を検討した。訓練開始前における両群間(control群21.4±28.2sec, exercise群20.0±27.6sec)には有意差は認められなかったが、訓練開始後5, 10, 14日目にcontrol群と比較して、有意な運動機能の改善が認められた(p<0.05)。1日12時間の自発運動訓練は協調運動など運動機能の改善に効果的であると考えられた。並行して、神経活動指標として軸索の伸張とシナプスの形成に関わるGrowth associated protein 43(GAP 43)に対する特異抗体を用いた大脳皮質のWestern blotを行ったところ、運動機能改善と関連してその増減が確認され、さらに訓練開始後3,5日目にその発現量に有意差を示した。運動機能の改善とGAP 43の発現において、有意差が認められた訓練開始後5日目の大脳皮質antibody microarray解析では、細胞の増殖に関連した核内タンパクのほか、神経成長因子、生理的なストレスに対する生体防御機構に関連した転写因子、および細胞の遊走、分化、分裂およびシグナル伝達に関連したリン酸化酵素など、十数種類のタンパク質のUp-regulateが確認された。脳梗塞後の麻痺および運動機能の回復には、損傷部位もしくはその周囲の神経細胞の可塑性変化が考えられるが、今回の解析において量的変動が認められたこれらのタンパク質は、神経細胞およびグリア細胞における広範な機能的変化が生じている可能性が示唆された。
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