研究概要 |
脳梗塞後の麻痺回復に関わる運動制御には、梗塞巣周囲の大脳皮質における機能的役割が推察されるが、その分子変化については不明な部分が多い。そこで、2時間20分の中大脳動脈閉塞後、再灌流を行った脳梗塞モデル動物を用い、FITプログラムに準じて週7日の訓練を2週間毎日行い、運動学的機能評価と大脳皮質におけるantibody microarray及びWestern blotによる解析を行った。脳梗塞手術2日後より1日12時間のランニングホイールを用いた自発運動訓練を行ったexercise群(n=20)と、訓練を行わないcontrol群(n=20)の2群間で、運動機能評価であるrotarod testの経時変化を検討した。訓練開始前における両群間(control群36.7±46.0sec,exercise群37.1±46.9sec)には有意差は認められなかったが、訓練開始後5,7,10日目にcontrol群と比較して、有意な運動機能の改善が認められた(p<0.05)。このことは、1日12時間の自発運動訓練が協調運動など運動機能の改善に効果的であると考えられる。さらに、運動機能学的に有意差が認められた訓練開始後5日目の大脳皮質antibody microarray及びWestern blotを用いた解析では、複数のリン酸化酵素、核内タンパク、神経成長因子、ストレス応答、細胞骨格の重合に関連する11種のタンパク質のup-regulationが、またapoptosisに関連したタンパク質などのdown-regulationが認められた。麻痺回復に関わる運動制御には、梗塞巣周囲の神経可塑性の存在が考えられるが、nerve growth factor, calmodulin, protein kinase Cなどの因子による可塑性発現が推測された。今回の解析で種々のタンパク質の量的変動が認められ、脳梗塞後の運動訓練により神経細胞およびグリア細胞における広範な機能的変化が生じている可能性が示唆された。
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