研究概要 |
温熱負荷による筋萎縮予防効果の根拠となる作用機序は,熱ショックタンパク(Heat shock protein : HSP)の活性化であるといわれている.HSPは温熱負荷のみではなく,運動や物理的刺激によっても活性化されるため,温熱と運動を組み合わせることで,より効果的に,筋萎縮の進行を抑制できるのではないかと考え,以下の2点を明らかにすることを目的とした. (1) 動物実験レベルにて,短時間の温熱負荷後のトレッドミル走について,タンパク質新生,修復に働くHSPの発現と,タンパク分解系に働くユビキチン-プロテアソーム系の働きを確認することを目的とした.また廃用性筋委縮に陥った全身運動が行えない患者を想定しての,トレッドミル走運動に替わる筋収縮にとして,神経筋電気刺激による筋収縮においても筋委縮進行抑制効果があるかについて検討した.温熱療法と運動療法併用効果の有無と,その作用機序の解明 (2) 臨床研究として,高齢者に対する温熱療法と運動療法の筋萎縮抑制ならびに筋肥大促進効果の検証 動物実験では,廃用性筋委縮の進行抑制を目的として,温熱負荷後の走運動および電気刺激による筋収縮を行った.その結果,1週間の実験期間内で,温熱負荷後の走運動において筋質重量,筋断面積の減少を抑制することができた. さらに,リアルタイムCPR法を用いて,タンパク質新生・修復に関与するHSPならびに分解に関与するユビキチンリガーゼE3の発現を測定した結果,温熱・運動の併用群にのみ,HSPの活性化とユビキチンリガーゼE3の減少を認め,このことが併用群における筋萎縮進行抑制効果の作用機序であると考えられた. 臨床研究では,デイサービス利用中ならびに通院中の高齢者を対象として,ホットパック10分施行後に運動を行わせたが,有意な差がでるほどの効果は認められなかった.温熱方法の検討が今後の課題である.
|