視覚障害者がウォールクライミングを行なう障害者スポーツイベントに参加し、実際にクライマーが登る動きやビレイヤーと呼ばれるロープを持つ介助者の指示手法などを観察・記録するとともに参加者および指導者にインタビューを行った。その結果、当初予定していたレーザー距離計での計測はビレイヤーの目にレーザーが入る可能性が高いことが分かり、新たに超音波での計測方法に方針を変更した。そしてビレイヤーから視覚障害者クライマーに対するホールド位置を示す指示語には、クロックポジションと距離を与えるケースが多いこと、指示とは別に励ましの言葉が多く用いられることが分かった。更に当初クライミングの指導者からは、装着物が軽い方が良いというコメントが得られたため小型の操作ユニット製作を予定していたが、指導者と対話するうちに、姿勢の制限されるクライミングにおいては、大型のスイッチが必要であるという意見が出された。これらの意見をもとに、胴まわりに大型のスイッチを配し、腰の後部に超音波発信ユニットを配した装着システムを試作した。システムは、床部に置いた受信ユニットまでの距離を随時計測し、スイッチを肘などで操作することで、その距離をスクリーンリーダが読み上げる仕組みである。クライマーは骨伝導ヘッドフォンを介してその音声情報を得る。また、このシステムを用いると、あらかじめクロックポジションと距離の記述を用いて準備されたホールド位置案内文を読み上げさせることも可能である。本システムは現状ではビレイヤーの指示の役割を代替することはできないが、視覚障害者クライマーが他人の指示で動くのではなく、自分の意思で情報を取得し、障害者スポーツを楽しむことが出来ると思われる。
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