本研究では、地域在住高齢者の歩行能力を多面的に評価し、動作の改善とそのために必要なトレーニングについて具体的な助言を行えるシステムの開発を目的としている。このシステムは、高齢者の歩行時の足のつま先と踵の接地・離地に関するパラメータ(接地パラメータ)をビデオ解析によって測定し、対象者の歩行能力の評価や改善のための助言を行うものである。平成21年度は、システムのプロトタイプを作成し、2自治体の介護予防特定高齢者施策の運動器の機能向上プログラム参加者60名を対象として試用試験を実施した。試用試験では、プログラム実施前後において、システムを用いて通常歩行における接地パラメータを測定し、接地パラメータ及びそれらを組み合わせて算出される歩行能力の評価得点(敏速性、接地安定性、対称性、離地安定性)を歩行映像とともに提示した。得られたデータから、本年度は特に、1)歩行能力の評価得点を介護予防事業参加者へ適用可能かどうか、2)プログラム参加によって接地パラメータがどのように変化するかの2点について解析を行った。その結果、介護予防事業参加者では敏速性が一般高齢者群と比較して低く、因子構造は敏速性と離地安定性が1つにまとまり、3下位尺度構成であることがわかった。従って、介護予防事業参加者へ評価得点を適用する際には、敏速性、安定性、対称性の構成とすることが妥当であると考えられた。プログラム参加前後の接地パラメータの変化については、プログラム参加によって敏速性や接地安定性の改善が見込め、歩行速度よりも顕著に歩行動作の変化を捉えることができることがわかった。このことから、プログラム参加者が自身の変化に興味を持つための効果的なフィードバック指標としても、評価得点が有用であることが示唆された。これらの知見によって、システムを介護予防事業に参加するような虚弱な高齢者に対しても適用できるようになった。
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