研究概要 |
ヒトの脳内情報処理過程に対する運動効果を解明することを目的とし, 本年度はヒトの脳内情報処理過程を非侵襲的に調べる有効な指標である事象関連脳電位(ERPs)を用い, 以下の2つの研究課題を検討した. まず, 一過性の運動が脳内の認知処理過程に及ぼす影響を検討するため, 運動習慣を有する群(運動群)と有さない群(非運動群)において, 強度の異なる20分間の自転車ペダリング運動後にGo/NoGo反応時間課題を実施し, 課題遂行中にERPsを測定した. その結果, ERPsの中でも刺激の認知処理に関わる神経活動を反映するP3振幅は非運動群においてのみ運動強度の違いによって異なる変化を示した(中強度運動後にP3振幅が顕著に増大). 次に, 一過性の運動が脳内の運動準備過程に及ぼす影響を検討するため, 30分間の中強度運動前・直後・回復期(運動終了後30分)にグリップ把持課題を実施し, 課題遂行中にERPsを測定した. その結果, ERPsの中でも脳内の運動準備過程に関わる神経活動を反映する運動関連脳電位は運動前に比べて運動直後で振幅が増大した. 以上のことから, 運動習慣のない者においては運動強度の違いにより認知処理過程に対する運動効果が異なり, 逆に運動習慣を有する者は運動強度に関わらず認知処理過程の機能を良好に維持できるものと考えられる. また, 30分間の中強度運動直後には運動準備過程に関わる皮質運動関連領野(運動野, 運動前野, 補足運動野など)の神経活動が賦活することが示された. 本研究の結果は, 一過性の中強度運動はヒトの脳内情報処理過程, その中でも刺激の認知処理過程と運動準備過程に関わる神経活動を賦活させ, その機能を亢進させる可能性を示唆するものである.
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