物体を把握した際に発揮される力は、物体が滑り落ちるのを防ぐために必要な最小限の力と人間が随意的に発揮している余剰の力(安全領域)とにわけられ、先行研究ではこの余剰の力が物体重量や把握面素材の影響を受けず各個人でほぼ一定であると報告されている。本研究の目的は、先行研究で調べられてきた200~800gに比べ、日常生活で一般的に使用されることの多い、より軽量な物体(8~180g、10条件)を把握した際の力調節について調べることであった。先行研究で200~800gの物体が用いられてきたのは、フォースセンサを配備した把握器を軽量化するのが困難だったためである。そこで、本研究では、指先による3軸方向の発揮力を測定可能な小型フォースセンサを配備した軽量(8g)把握器の開発を試みた。また、予備実験の結果、被験者内・被験者間での変動が大きいことが確認されたため、本実験では1条件あたりの試行数を10回に増やした。上述した把握器を用いて10名の被験者を対象に実施した実験では、測定した持ち上げ力は物体重量とほぼ一致し、軽い物体を把握した際の微量な力も正確に測定できていることが確認された。また最も興味のあった安全領域については、把握力絶対値は重量が大きくなるのに比例して大きくなることが明らかとなった。一方、把握力相対値については、40g以上の重い物体では、安全領域が先行研究と同様、一定となったが、30g以下の軽量の物体では、最も軽量な8gの条件で安全領域が最も小さくなり、15g、20g、30gの順に徐々に大きくなることが明らかとなった。つまり、これまでの研究ではこの安全領域が各個人で一定であるとされてきたが、本研究から30g以下の軽量物体では、より小さい安全領域での把握が行われていることが明らかとなり、重量によって異なる把握運動制御戦略が用いられていることが明らかとなった。
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