次の3点について研究を行い、それぞれ以下の結果を得た。 1.障害者のスポーツ権の位置づけについて、スポーツの公共性について念頭におきつつ、ドイツにおける障害者のスポーツの歴史的背景がわかる資料およびヒアリング調査に基づき障害者のスポーツ権について考察した。その結果、戦傷者のリハビリテーションとしてのスポーツという意味だけではなく、スポーツクラブへの参加という生活文化が戦前から根付いていたため、戦傷者に対する国家的保護においても戦傷者のスポーツ参加が当然の権利として受け入れられていたことがわかった。 2.訪独し、障害者スポーツの制度上の課題やクラブ運営上の課題等を明らかにするためにインタビュー調査を行った。その結果、障害者スポーツに医療保険が適用される制度があると言っても、実際には生活習慣病に関連のある心疾患、糖尿病等の悪化の予防的プログラムへの参加者が多く、切断や車いす利用者等の身体障害者や知的障害者、精神障害者の参加者数は増えているわけではないことがわかった。また、障害者と健常者とが同時に練習する際には能力上の差が大きく、同一種目であっても必ずしも合同で行なわれているわけではないことがわかった。自治区による社会保障制度の差異についても調査したが、社会保障制度は連邦のしくみであることから州や自治区による違いは無いことがわかった。 3.ドイツの総合型スポーツクラブにおける障害者の受け入れ体制の課題を考察した。その結果、2の結果に関連して、クラブが採算を採りつつ自主運営を行っていくため、ニーズに基づく教室としての心疾患や糖尿病等の悪化への予防プログラムへの対応は多くみられたが、ニーズが顕在化しにくかったりまたは絶対的なニーズが多くはない障害種別のプログラムは、医療保険制度が適応されるかといってどのクラブでも実施の体制を築けるわけではないことが考察された。
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