ドイツにおける医療保険制度を適用した障害者のリハビリテーション・スポーツ制度について、障害者のスポーツ権と社会保障制度を成立させている歴史的、社会的背景とを踏まえた上で、日本における適用可能性を検討した。その結果、障害者のスポーツに限らず、歴史的にスポーツを地域のクラブで行ってきたドイツと学校体育や学校単位で行う部活動、企業単位を中心として行ってきた日本とでは、生活の中におけるスポーツ文化の捉え方が異なっており、クラブスポーツの形態が緒をついたばかりの日本において、地域のスポーツクラブで障害者があたり前にスポーツを行う生活感覚を皆が持つことは容易ではないことが考察された。また、リスク社会と言われている(U.ベック等)現代において、医療保険制度の適用を受けながら障害者が自らも通う地域のスポーツクラブでスポーツをしている姿を日常的に目にすることは、社会連帯が薄い社会における自己の将来像の疑似的可視化につながる可能性を有しており、それゆえ、医療保険の適用に必要な社会連帯と個人のリスクへの対応の2つの側面が同時に満たされる可能性が見出された。以上のことを踏まえると、日本における医療保険制度を用いた障害者の地域スポーツクラブへの参加については、生活におけるスポーツクラブ文化の醸成がキーになると考察された。 これらの内容について国内の学会で発表し、質疑応答を経てた。その結果、今後の研究課題として、本制度の実現可能性を高めるためには、指導者の養成方法の詳細を明らかにすることと、医療保険適用の費用対効果として、リハビリテーション・スポーツの効果の検証をどのように考えるべきであるのか等について、考察する必要があるとの認識を得た。
|