24時間以上の断眠によって心理検査など心理的パフォーマンスは低下することが明らかにされている。一方、運動パフォーマンスは、筋力は低下しないという報告がほとんどであるが、有酸素性運動能力は低下することが報告されている。昨年度は、断眠による有酸素性運動能力の低下は、体液量の減少によるものではなかという仮説のもとに検証を行ったが、24時間断眠によって、体液量の減少、有酸素性運動能力の低下とも認められなかった。本年度は、心理的パフォーマンスとして全身反応時間、運動パフォーマンスとして運動時体温調節能の測定を加え、体液調節の観点から「睡眠不足による心理的及び運動パフォーマンス低下のメカニズム」を検証した。健常成人男性8名を対象とし、実験条件は7時間の十分な睡眠後と24時間断眠後の2条件で、睡眠と断眠の前後に体重測定を行い体液量の変化を検討した。その結果、昨年度と同様に睡眠条件では発汗による体液量の減少が認められたが、断眠条件では体重の変化に差がなく体液量の変化が見られなかった。しかしながら、発汗による断眠時の脱水量(412±41ml、平均値±標準誤差)は睡眠時(333±32ml)より大きく、有意な差が認められた。光刺激による全身反応時間は単純反応時間、選択反応時間とも2条件で差はなく、神経反応や選択反応による脳情報処理能力に差異を見出せなかった。また、運動時体温調節能は、自転車エルゴメータを用いて皮膚血管拡張閾値によって評価したが、睡眠条件(37.1±0.1℃)と断眠条件(37.1±0.1℃)の2条件に統計的な差は見られなかった。断眠によって明らかに発汗による脱水が亢進するが、被験者の体調管理のため任意摂取とした水分摂取(355±53ml)により体液量を維持する傾向が見られた。断眠時は水分補給による体液維持対策によって運動パフォーマンスの低下を最小限にできる可能性が示唆された。
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