研究概要 |
障害と共に生きる者が増加し,生き方への援助が重要な課題となっている今日において,中途身体障害者を対象に受障から現在までの自己変容過程に果たす運動・スポーツの役割を検討することは,非常に重要である.従来の運動・スポーツ科学領域における身体障害者を対象とした研究では,理論モデルの不在や量的アプローチの限界が指摘されてきた.そこで本研究では,自己概念に関する多面的階層モデル(Fox & Corbin, 1989)に準拠しながら,質的アプローチからも検討をすすめてきた. 本年度は,障害者スポーツ指導員や当事者の家族といった周囲の人々へのインタビュー調査を行いそこから社会的要因について精査していく予定であったが,対象者とのスケジュールの調整がうまくいかなかった面もあり,すべてのインタビュー調査を終えることができなかった.しかしながら,これまでの科学研究費補助金による研究成果の一部を,一般市民向けのセミナーや講話で提示するという場を数回にわたり持つことができ,学術的な学会だけでなく,幅広い応用・般化に向けて研究成果を発信することができた. 今後は,周囲の人々からナラティブなデータを継続して収集するとともに,脊髄損傷者にとどまらず,中途の視覚障害や切断などの障害のある方を対象に,自己変容過程を総合的に検討していくことが望まれる.さらに,これまでの研究成果を応用し,障害のあるトップアスリート(ハイパフォーマンス・スポーツ選手)を対象に,周囲の環境や人間関係などのダイナミックな関係性を踏まえた変容プロセスの因果モデルの構築へと発展させていく予定である.
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