2016年夏季オリンピック大会招致に失敗したものの、東京都は2020年の招致を目指す意向であると言われる。仮に招致が決定すれば、1964年大会以来、アジアでは初の2回目の開催となる。東京都が示す開催の意義とは、東京がこれまで成熟を遂げてきた証を世界に示すことであり、大都市が様々な難問を克服してきた姿を範として示すことにあるという。2016年の大会招致に込められた東京都の期待はオリンピックを挺子とした都市開発と都市問題の解消にある。そこに位置付く正負の遺産こそが1964年大会によって作られたものである。 本年度は、東京オリンピック開催によってスポーツ空間がどのように変容していったのかについて、日本体育協会をはじめとするスポーツ組織の変容と国家との共存関係について明らかにした。オリンピックの開催はそれまで慎重に回避されてきた国家のスポーツ政策への関与を復帰・強化し、1961年のスポーツ振興法の成立にみられるように、日本のスポーツ政策の根幹を決定づけていく。後にオリンピック至上主義と呼ばれる選手強化策の確立とスポーツ団体への財政的支援はこの時期に確定していった。また、寄付金を原資とした「オリンピック東京大会記念施設建設計画」は全国各地に競技施設を作り出し、オリンピックの遺産となっていった。 これまで明らかにしてきたように、戦前の「幻の東京オリンピック」に連なる東京大会は、都市空間とスポーツ空間の変容を相補的になしとげながら実施され、日本のスポーツと都市の関係を規定してきたのである。
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