研究概要 |
本年度,2つの研究を実施した.(1)CCDカメラを利用して運動空間と視覚空間を乖離したバーチャル環境を開発し,到達運動が空間的注意に及ぼす影響を検討した.被験者はCCDカメラを介して腕およびターゲット(LED)が呈示されたモニターを見ながら到達運動を実施した,その結果,モニター上に腕が呈示される条件では,これまでの報告と同様に空間的注意は腕と対側半空間にダイナミックに移動した.他方,腕の視覚情報が遮断され,ターゲットのみが見える条件では,空間的注意の非対称性は観察されなかった.この結果により,バーチャル環境下における到達運動に伴う視覚的注意の変化には,映像を通して身体図式の延長が重要であることが示唆された(2)到達運動の観察が観察者の空間的注意に及ぼす影響を眼球運動(サッケード)の計測により調べた.被験者は点灯する中央のLED(ターゲット)が左右いずれかに時々ジャンプする3種類の映像を観察した.A)スタート位置の右腕が全く動かない映像,B)スタート位置から中央のターゲットへ右腕が到達運動を行っている途中にターゲットが左右いずれかにジャンプし,腕が新しいターゲットに向かって修正を行う映像,C)中央のターゲットに対する右腕の到達運動中にターゲットがジャンプするが,腕は常に中央のLEDに向けて真っ直ぐ到達する映像であった.課題は,最初に中央のターゲットを固視し,ターゲットが移動した場合には素早く新しいターゲットに視線を向けることであった.映像上の右腕がスタート位置で全く動かない場合(A),左右のサッケード潜時に有意な差は認められなかった.これに対し,映像上の右腕が中央のターゲットへ移動中にターゲットがジャンプした場合(B,C),左側へのサッケード潜時の方が右側よりも有意に30~40ms短かった.この運動観察中の視覚的注意の変化の要因として,脳内のミラーニューロンが関与している可能性が高いと思われる.今後,この現象をさらに詳しく調べる予定である.
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