本研究では、ベースボール/野球を実践する日系二世の政治的身体を事例として、彼らのアイデンティティの形成プロセスに関しての考察に取り組んだ。今年度は、昨年度の成果(1940~50年代の当該テーマに関ずる資料収集)をふまえて、日布野球交流初期(19世紀末から20世紀初頭)の資料調査を行った。具体的には、日系二世の選手のみならず、日本の学生選手の渡布をめぐる経験も対象として、日本・ハワイ・米国の新聞、雑誌、書籍、個人的な手記、パンフレット等の史資料を包括的に収集した。 こうした太平洋を跨いだ野球/ベースボール交流に関する通時的な資料調査から分かるのは、かつて諸身体技法の見本(オリジナル)とされていた側が、時代の変遷とともに、逆にコピーからヒントを得てそれをコピーするというようなはてしない循環のなかで、もはやその外部にオリジナルを見定めることさえ不可能となる錯綜した現実である。自己(のプレー・スタイル)と他者は完全に同一化することはないにせよ、模倣の繰り返しによって、自他を二項対立的に切り離すことも困難となる。 にもかかわらず、それぞれの時代ごとに、通時的な模倣め実践ば等閑視され、一方で、彼我のプレー・スタイルをめぐる二項対立的な語りは再生産され続けてきた。 本調査の成果の一部は、すでに昨年度の学会・研究会等で発表を行ったが、当初の計画通り、学界だけにとどまることなく一般読者向け書籍の出版の執筆にずでに取り掛かっており(6章構成3章分まで執筆済)、本調査のタイムスパンをもって日布野球交流史を通時的に描き出すことにより、スポーツをめぐる彼我め二項対立的な語りを改めて問い直すことができると考えている。
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