平成20年度は、エジプト・アラブ共和国上エジプト地方のルクソール市域を中心に、祝祭、および日常におけるナッブートの実施状況を研究・調査した。調査地であるルクソール市域はエジプトでも有数の観光地として多くの古代遺跡群を有するのと同時に、上エジプト地方のみならず、エジプト全土に知れ渡る聖者生誕祭が行われる地であり、祭りにあわせてナッブートの競技会も毎年盛大に行われている。本調査では祭りに付随して行われる競技の実施状況、身体技法などのデータ収集を丹念に行い、競技の総合理解の基礎データ作りを進めた。あわせて、折しも調査地では「文化財保護・観光化」の流れに伴う村落の集団移住が展開されており、ナッブートを地縁的な繋がりによって育んできた地域コミュニティ、および日常生活の中におけるナッブートの変容が動態的に調査され、その様子は日本体育学会第59回学会大会(於 : 早稲田大学)にて詳しく報告された。本年度、参与観察においては、IC録音機、デジタルビデオ、デジタルカメラにて音声・映像・画像の記録を行い、それらをパソコンにてデータの整理・保存作業がなされている。あわせて聞き取りによって得られた情報の補完、および次年度に控える最終報告に向けた情報収集のために、かつてのエジプトの保護国であり、当該国の情報が多く集積されている英国に渡り、大英図書館・英国王立人類学協会図書館などにおいて文献・資料の収集も進めている。
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