平成21年度は、引き続きエジプト・アラブ共和国ルクソール市域を中心に祝祭、および日常におけるナッブートの実施状況を研究・調査した。調査地はエジプトでも有数の観光地として多くの古代遺跡群を有するのと同時に、この地方のみならず、エジプト全土に知れ渡る聖者生誕祭が行われる地であり、祭りにあわせてナッブートの競技会も毎年盛大に行われている。本調査では祭りに付随して行われる競技の実施状況、身体技法などのデータ収集を丹念に行い、競技の総合理解のためのデータ作りを進めた。あわせて、調査地は国を挙げての「文化財保護・観光化」の流れに伴う村落の集団移住が展開された直後であり、21年度の調査では新たに近隣に建設された村において地域コミュニティの変容も調査された。本参与観察の結果は、日本体育学会第60回学会大会(於:広島大学)にて、また中華人民共和国北京市清華大学にて開催された国際シンポジウム「アジアスポーツ人類学論壇」にて、2年間の研究成果を踏まえて報告がなされ、特に清華大学での研究発表は現在論集として出版の準備が進められている。本年度、参与観察においては昨年に引き続きデジタル機器にて音声・映像・画像の記録が行われ、それらはパソコン、およびHDにおいてデータ保存・整理がなされている。また、参与観察によって得られた情報の補完、および最終報告に向けた情報収集のために、かつてのエジプトの保護国であり、当該国の情報・文化人類学の情報が多く集積されている英国に渡り、英国王立人類学協会図書館などにおいて文献・資料の収集が行われた。
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